ソニー・ミュージック・パブリッシングやワーナー・チャペル・ミュージックなど音楽出版35社が、楽曲の著作権侵害を理由にAnthropic PBCを提訴しました。音楽業界にとっての意味を中心に訴状の内容を整理してご紹介します。

訴訟の概要
2026年8月28日、ソニー・ミュージック・パブリッシング(SMP)、ワーナー・チャペル・ミュージック(WCM)を中心とする音楽出版社が、米カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所にAnthropic PBC、ダリオ・アモデイCEO、ベンジャミン・マン共同創業者を被告として提訴しました。訴訟記録(Corporate Disclosure Statement)によれば、原告35社の内訳はソニーグループ傘下24社、ワーナー・ミュージック・グループ傘下11社となっています。訴状は48ページに及び、事件番号は5:26-cv-09217とされています。裁判所の記録では本件は著作権関連訴訟に分類され、陪審審理が求められています。
本訴訟は、2023年10月にユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループ(UMG)らがAnthropicを提訴した件に続くもので、音楽出版業界がAIサービス事業者を相手取って起こす著作権訴訟の一つです。
楽曲データはどのように収集されたのか
原告側は、Anthropicによる著作権侵害が大規模な違法ダウンロード(トレント)行為から始まったと主張しています。訴状によれば、マン氏は2021年6月にBitTorrentを利用し、Library Genesis(LibGen)から少なくとも500万冊の海賊版書籍をダウンロードしたとされています。さらに、Anthropicの従業員は2022年7月にPirate Library Mirror(PiLiMi)から少なくとも200万冊を追加でダウンロードしたと主張されています。これらの書籍データの中に楽曲の歌詞が含まれ、AIモデルの学習に使われたことが、音楽出版社側の主張の出発点となっています。
訴状は、マン氏がAnthropic社内のSlackチャンネルでこのダウンロード活動についてリアルタイムで話題にし、ダウンロード状況のスクリーンショットを同僚と共有していたと指摘しています。
訴状が主張する4つの訴因
訴状では以下の4つの訴因が挙げられています。
- トレントによる直接的著作権侵害(全被告に対して)
- トレントによる寄与侵害(アモデイ氏およびマン氏に対して)
- 直接的著作権侵害(Anthropicのみに対して)
- 著作権管理情報の削除・改変(Anthropicのみに対して)
4つ目の「著作権管理情報の削除・改変」は、米デジタルミレニアム著作権法(DMCA 17 U.S.C. §1202)に基づく主張です。これは音楽分野に限らず、画像や文章を扱う生成AI訴訟でも共通して用いられる論点であり、AI学習データのスクレイピングや前処理工程そのものの違法性を問うものです。
原告側の請求内容と法的論点
原告側は、故意による著作権侵害1件につき最大15万ドルの法定損害賠償、また著作権管理情報の削除行為1件につき最大2万5000ドルの賠償を求めています。加えて、侵害とされる複製物の廃棄、およびClaudeの学習データに関する開示を求めています。原告側の代理人は、別件のConcord Music Group対Anthropic訴訟の主任弁護士も務めるOppenheim + Zebrak法律事務所と、Pryor Cashman法律事務所です。
本件の争点の一つは、AIモデルが歌詞を学習・生成する行為が「変形的使用(フェアユース)」として認められるか、それとも歌詞のライセンス市場を代替する侵害行為にあたるかという点です。この判断は、今後のAI事業者と音楽出版社との間のライセンス契約の相場形成にも影響しうるものとみられます。
先行する書籍訴訟の和解との関係
訴状では、先行する書籍作家らによる集団訴訟(Bartz v. Anthropic)において2026年7月に最終承認された15億ドルの和解に言及しています。原告側はこの和解金について、巨大テック企業にとって違法行為の抑止力にはならないと厳しく批判しています。また、書籍そのものの著作権と、その書籍に掲載されていた歌詞・楽譜の著作権は別個の権利であるため、書籍訴訟の和解によって音楽出版社側の請求が解決したわけではない点も、本訴訟の前提として示されています。
創業者個人が被告に含まれる異例さ
本訴訟では、Anthropic PBCという法人だけでなく、アモデイCEOとマン氏という経営幹部個人も、BitTorrentによる直接侵害・寄与侵害の被告として名指しされています。法人格を通じた責任回避を防ぐ狙いがあるとみられ、本訴訟の注目点の一つとなっています。
Anthropic側の対応
TechCrunchの取材に対しAnthropicは、「私たちは出版社側の主張に同意しておらず、法廷で徹底的に反論していく所存です」とコメントしています。
音楽出版社によるAnthropic提訴の経緯
Anthropicを巡る音楽出版社との著作権訴訟は今回が初めてではありません。ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループ、コンコード・ミュージック・グループ、ABKCOは2023年10月、テネシー州ナッシュビルで約500曲を巡ってAnthropicを提訴し、後にカリフォルニア州に移送されています。同じ原告らは2026年1月にも2万点以上の楽曲を対象とし、30億ドル超を求める2件目の訴訟を提起しています。さらに2026年3月にはBMGが493曲を巡って3件目の訴訟を、同年8月17日にはRound Hill Musicが4件目の訴訟をそれぞれ起こしています。今回のソニー・ワーナーによる提訴は、これに続く音楽出版業界からの5件目の大型訴訟にあたります。
参照元:https://www.courtlistener.com/docket/74720572/1/sony-music-publishing-us-llc-v-anthropic-pbc/


