ケルシー兄弟のポッドキャストがAmazonの「ブランド王国」に! クリエイターエコノミーの新潮流

NFLスターとして知られるジェイソン&トラビス・ケルシー兄弟がホストを務めるポッドキャスト「New Heights」が、Amazon傘下のWonderyと組んで進める新たなビジネスモデルが注目を集めています。単なる音声番組の枠を超え、グッズ販売・ライブイベント・EC・映像コンテンツを融合させた「ブランドエコシステム」として急拡大中。ニューヨーク・タイムズの詳細な取材をもとに、その全貌を解説します。

「New Heights」ポッドキャストとは

「New Heights with Jason & Travis Kelce」は、フィラデルフィア・イーグルス(引退)のジェイソン・ケルシーと、カンザスシティ・チーフスのトラビス・ケルシー兄弟が週1回配信するスポーツ・エンタメ系ポッドキャストです。NFLの内側をユーモラスに語る内容と、兄弟ならではのリラックスした掛け合いが人気を呼び、YouTubeでは平均190万回以上の再生数を誇る人気番組となっています。

2024年夏には、トラビスの婚約者であるテイラー・スウィフトがゲスト出演したエピソードがYouTubeの視聴記録を更新するほどの大反響を呼び、番組の知名度は一気に世界規模へと広がりました。同年、AmazonはWondery(ワンダリー)を通じてこの番組と3年間、推定1億ドル(約150億円)規模といわれる独占契約を締結しています。

Amazon「Creator Services」の誕生と狙い

ニューヨーク・タイムズの報道によれば、Amazonは2024年8月、ポッドキャスト部門のWonderyを大規模に再編し、「Creator Services(クリエイターサービス)」という新部門を立ち上げました。この新部門の中心的なコンセプトは「ポッドキャストに広告を出すのではなく、番組の周囲に小さな世界(ミニ世界)を構築して、それ自体を販売する」というものです。

その第一弾実験台となったのが、ケルシー兄弟の「New Heights」でした。2026年1月、AmazonとケルシーはAmazonのウェブサイト上に「Kelce Clubhouse(ケルシー・クラブハウス)」というランディングページを設置。このページでは、フーディーやステッカーといった番組オリジナルグッズの販売に加え、ケルシー兄弟が推薦する書籍『No Dumb Questions』の告知、AudibleでのHarry Potterシリーズのプロモーション、さらにはアマゾンプライムのドキュメンタリー映画「Kelce」の視聴や「フットボールパーティ」用の食材・グッズまでが一括して紹介されています。

Kelce Clubhouseで扱われる商品のうち、兄弟が共同出資するクラフトビールブランド「Garage Beer」の推薦は、単純な広告ではなく本人たちの真正なおすすめとして紹介されている点も特徴的です。「単にスポンサー料を受け取るのではなく、ファンとの信頼関係に基づいた商品・体験のエコシステムを作る」という思想が見え隠れします。

ライブイベントへの拡張——ワールドカップ期間中のLA公演

Creator ServicesのGMであるマット・サンドラーは「Kelce Clubhouseの立ち上げに続き、ライブ体験へと拡張していくことは自然な流れだ」と述べています。2026年4月に発表された「New Heights Live in LA」は、2026年6月15日にロサンゼルスのオーフィアム・シアターで開催されるライブ収録イベントです。2,000席以上を有する歴史的な劇場で行われるこの公演は、FIFAワールドカップがロサンゼルスで開幕するタイミングと意図的に合わせており、「NFLスターがサッカーの祭典に乗り込む」という話題性も狙っています。

ライブ収録の映像はYouTube、Prime Video、各ポッドキャストプラットフォームで6月17日から公開予定。スポンサーとして、レンタカー大手エンタープライズとXfinityが名を連ねています。このライブ企画は広告主にとっても魅力的なスポンサー機会を創出しており、Creator Servicesが目指す「放送とEC、ライブを横断するビジネスモデル」の象徴的な事例といえます。

ポッドキャストの収益化モデルが変わる

これまでポッドキャストの主な収益源はCMやスポンサー読み上げ広告でした。しかしAmazonのCreator Servicesが「New Heights」で実験しているのは、それとは根本的に異なるアプローチです。ファン向けのブランドコミュニティを作り、グッズ・ライブ体験・コンテンツ・EC購買を統合的に提供する「コンテンツを核にしたライフスタイルブランド化」です。

ニューヨーク・タイムズの取材で、Amazonの広告エグゼクティブは「クリエイターとはアクター、アーティスト、あるいはASMRインフルエンサーでも誰でもなれる。私たちは特定のフォーマットにとらわれていない」と語っています。つまりCreator Servicesの手法は、ポッドキャストに限らず、Twitch配信者などあらゆるデジタルクリエイターに応用可能であることを示唆しています。

日本のポッドキャスト市場においても、広告費の成長が見込まれる一方で、単純なCM収入に依存しないマネタイズモデルの模索が始まっています。Kelce兄弟とAmazonが実験している「ファンダムとECとライブを掛け合わせた収益化」は、日本のポッドキャスト界にとっても先行事例として参照価値の高い取り組みです。

まとめ

ジェイソン&トラビス・ケルシー兄弟の「New Heights」と、AmazonのCreator Servicesが構築しつつある「Kelce Clubhouse」エコシステムは、ポッドキャストを軸にしたブランドビジネスの新たな可能性を示しています。音声コンテンツが広告媒体に留まらず、グッズ・ライブ・映像・ECを融合した「ブランドの王国」へと進化しつつある流れは、世界のクリエイターエコノミーにとっても示唆に富む事例です。

参照元: https://www.nytimes.com/2026/04/24/business/media/jason-travis-kelce-amazon-podcast.html