The Vergeが「How Spotify’s podcast plan went off the rails(Spotifyのポッドキャスト計画はいかにしてレールから外れたか)」と題した記事を掲載し、とても興味深い記事だと思ったので今回、こちらを紹介したいと思います。
The Verge / How Spotify’s podcast plan went off the rails
Spotifyのポッドキャスト関連のニュースとして、「Spotifyのポッドキャスト広告収入の大部分を占めるジョー・ローガンが、反ワクチン派の大統領候補を番組に招いた。」「ある王族夫婦との2,000万ドルのポッドキャスト契約が破談になり、その後Spotify幹部がこの2人を「クソ詐欺師」呼ばわりした。」「2023年だけでも2回のレイオフがあり、人員削減は主にポッドキャスト部門が対象とされてきた。」といったものが話題になっています。
The Vergeによれば、「Spotifyのポッドキャスト戦略は何か間違っていることがここ数週間で証明された。ポッドキャストにおける成功の方程式が、映画、ビデオゲーム、書籍、そして音楽とは根本的に異なることが明らかになった。一般的には知財や知名度があれば多くのメディアでヒットを飛ばすことができる。しかしポッドキャストの世界では、いかに高名な映画監督やベストセラー作家、あるいは元大統領のシリーズだとしても大ヒットにはならず、ヒットチャートに載るのがやっとだ。そして、Spotifyはヒットメーカー戦略を何年も追い求めた結果、すべてが崩れ去ろうとしている。」とのこと。
以下、Spotifyがとってきたポッドキャストに対する戦略をまとめます。
■自社ポッドキャストスタジオの拡充戦略
Spotifyのポッドキャスト戦略を振り返ると、大きな柱として、自社ポッドキャストスタジオの拡充があげられます。実績のある大手制作会社のParcastとGimletを買収したことがその代表例です。しかし、買収後に大きなヒット作を産み出すことが出来ていないのが現状です。作られた新しい特定の番組はSpotify独占配信としたことで、リスナーが減少してしまっています。結果、今月初めにGimletとParcastを縮小し、Spotify Studiosに統合しています。逆の動きを見せているのはAmazonで、ハリウッドを本拠地とする大手ポッドキャスト制作スタジオ「Wondery」を2021年にAmazon Musicの傘下としていますが、制作番組はAmazon Music独占配信とはせずに「Amazon Music先行配信」にとどめており、幅広いプラットフォームへ配信を継続しています。
■有名人による独占配信番組の配信戦略
Spotifyのポッドキャスト戦略の2つめの柱は、有名人によるSpotify独占配信番組の配信です。知名度の高い人物による番組で、うまくいったものもある一方で、多くの番組は期待どおりとはいきませんでした。バラク・オバマやブルース・スプリングスティーンなどの超大物をホストに登用しても多くの新規リスナーを集めることができなかったのです。しかもこの戦略には多くのコストが掛けられており、直近ではハリー王子夫妻との契約終了が大きな注目を集めるなど、想定外の事態になっています。国によってはSpotifyがポッドキャスト配信プラットフォーム、もしくは音楽配信プラットフォームで圧倒的なシェアをもっているわけではないこともこの戦略の問題点となっています。国や人種によって好まれる配信プラットフォームに差がある中で、Spotify独占配信となるとリスナーが激減することもあるのは言うまでもありません。今後、Spotify独占配信としない番組も増やさざるを得ないという方向にあると考えられます。Spotifyの方が早く聴ける、過去のエピソードもすべて聴けるが、他のプラットフォームでも最新エピソードは聴けるといった中間的な配信が望ましい気がします。
■ポッドキャスト広告販売戦略
Spotifyのポッドキャスト戦略3つ目の柱は、ポッドキャスト広告販売です。前述の戦略が頓挫する中で残された道は、この戦略にフォーカスするのが最善の策であろうというものです。Spotifyが、2023年6月に傘下の音声広告効果測定ツールのPodsightsを「Spotify Ad Analytics」とサービス名を改称し無料で使えるようにしたこともその流れです。
今後Spotifyのポッドキャスト広告関連の動きに注目していきたいと思います。また動きがあればお伝えしていきますのでお楽しみに。
最後に、ポッドキャスト業界の専門家が見るSpotifyについても記事で触れられているので簡単に紹介しておきます。
■専門家の見解、ジョー・ローガンの番組が要
NPRのポッドキャスト番組を多く開発し、Audibleのポッドキャスト配信を手掛け、オーディオ業界のトップのコンサルタントとして著名なエリック・ヌザム氏によれば、「Spotifyはまだ、ポッドキャストで最も人気のあるプラットフォームには程遠い状況です。実際に多くのポッドキャスターに話を聞いてみると、ダウンロードの50〜60%はApple Podcastからだといいます。」とのこと。実際、2023年3月に発表されたPodtracのレポートではダウンロード数は、Spotifyの9%に対し、Apple Podcastは71%を占めているそうです。
さらに彼はこうも言っています。「Spotifyポッドキャストの最大の強みは、ジョー・ローガンの番組、The Joe Rogan Experience(ジョー・ローガン・エクスペリエンス)があることです。この番組を独占していることが、他社ポッドキャスト配信プラットフォームと差別化する大きな要素であり続けています。Spotifyがポッドキャストに対して様々なことを行ってきて、そして多くの資金を費やしてきたにもかかわらず、ジョー・ローガンの番組がなくなってしまえばSpotifyのポッドキャスト広告ビジネスは大きな打撃を受けるでしょう。問題なのはSpotifyとジョー・ローガンの関係は相互依存という健全なものではないことです。ジョー・ローガンがSpotifyを必要としているとは思いません。彼は番組を持って他のプラットフォームにいくこともできるのですから。今後どうなるかは誰にもわかりません。」
■最強ポッドキャスト番組「ジョー・ローガン・エクスペリエス」とは
ポッドキャスト番組「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」は、総合格闘技のコメンテーター・ポッドキャストのホスト・コメディアン・俳優・テレビ司会者など多方面で活躍するジョー・ローガンがホストを務め、コメディアン・芸能人・コメンテーター・科学者・ミュージシャン・格闘家・作家・アーティスト・ジャーナリスト・起業家・政治家・スポーツ選手など幅広いジャンルのゲストを招いて対談・討論する番組です。1つのエピソードで3、4時間の長時間になることもあるのも特徴のひとつです。さらに1エピソード当たり平均1,100万人が聴取するといいます。また世界で最も稼ぐポッドキャスト配信者ランキングで、年間3,000万ドル(約33億円)の広告収入で1位に選出されています。2020年5月19日、Spotifyとジョー・ローガン・エクスペリエンスの独占契約が結ばれた際に、契約金は2億ドル(約270億円)以上と報じられています。何もかも桁違いのポッドキャスト番組ですが、このひとつの番組の契約の行方がSpotifyのポッドキャスト戦略や、ひいてはポッドキャスト業界全体に大きな影響を与えるというのは、なんともすごい話ですね。
ではまた。